『哀愁の町に霧が降るのだ』

哀愁の町に霧が降るのだ〈下巻〉 (新潮文庫)

哀愁の町に霧が降るのだ〈下巻〉 (新潮文庫)

新橋烏森口青春篇 (新潮文庫)

新橋烏森口青春篇 (新潮文庫)

最近、椎名誠私小説が面白い。
サラリーマンになって数年が経った今読んでよかった小説だと思う。
学生時代に読んだら、文章の面白さは分かっても、それ以外のよさは分からなかっただろうし。

下宿にみんなで集まって中身が無茶苦茶な鍋を食って寝込むまで酒を飲むところとか、
夜中に会社の屋上で賭博やって早朝にこそこそと飯を食いに行くところとか、
会社の先輩がいろんな事情と行き先を持ってやめていくところとか、
羅列してしまえば、いかにもありそうでオヤジ臭いエピソードだけど、その実、ひそかにカッコよさやら郷愁やらが混じっていて、「いい日々だったんだなぁ」としみじみと感じ入ってしまう。
1970〜80年代というのは資料的には随分違い時代なんだけど、自分個人の視点から言えば産まれていないか幼すぎて覚えていないかで実感というものは全然まったく持っていない。電車もビルもテレビもあるんだけど、どんな風に人が生きてたのか、ってのは実は良く分からない。なので、この日々の空気が、時代的なものなのか、椎名誠だからできたのか、或いは椎名誠私小説だからこうなっているのか、は分からない。
けれど、その時その場所にこういう生活があったのだと想像するだけで、そののどかさと余裕に憧れを持つ。

青春小説としてなら『哀愁の町に霧が降るのだ(上・下巻)』
サラリーマン小説としてなら『新橋烏森口青春篇』
起業小説としてなら『本の雑誌血風録』

が、オススメ。