九年目の魔法

 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著/浅羽莢子訳 創元推理
 春のサークルのイベント(新人歓迎読書会)で使おうと思って読みました。スタジオジブリの「ハウルの動く城」の原作「ハウルと火の悪魔」の作者の小説です。この本なら話題だし、読んで興味を持った新入生がたくさん来るかなぁと下心を抱いてるんですが、どうなるか・・・。
まぁ、それはおいておいきましょう。「ハウル〜」の評判があまり芳しくないのと、どうせ流行のものだろうという僕の勝手な思い込みから、侮って読んでいたのですが、なかなかどうして面白かったです。文体の魅力は乏しいというか、少し読みにくい感じもありましたが、ストーリーのほうはよかったです。現代のイギリスを舞台にして、一人の少女が自分の中に真実だと思っていた記憶と矛盾したもう一つの記憶があることを発見し、隠された記憶のほうを思い出しながらやがて自分のしなければいけなかったことを発見する、という構成です。思い出していくのが九年分、短いようで、少女が成長するには充分な時間を読みながら体験することが出来ます。それほど多くありませんが、僕が読んできたファンタジーは物語上の時間が1日〜1ヶ月という短いものか、やたらと膨大な時間をかけた長いものかどちらかだったような気がするので、この九年という、なんというか『身近』な長さを持った時間をストーリーの中で描いていた作品は斬新でした。現代のイギリスが舞台で、魔法などのファンタジー要素もありますがそれほど多くなく、作品全体として『身近さ』がありました。こういう作品が僕は好みなのですが・・・さて、他の人がどう読んでくれるか。