ブラックウッド怪談集

 A・ブラックウッド著/中西秀男訳 講談社文庫
ブラックウッドの代表作とされている「柳」(本書内では「ドナウ河のヤナギ原」)が読みたいがためだけに買ってしまったものをやっと読みました。
やはり、「柳」はよかったです。少しづつせまってくる未知の物に、二人の男が追い詰められていく様子はぞくぞくとさせられました。ただ、ラヴクラフトがブラックウッドを影響を最も受けた4人の作家(他の3人はアーサー・マッケンとM・R・ジェイムズ、ロード・ダンセイニ)の一人に上げるだけあり、「四次元の存在」やら、「別の世界の存在」やら、後にラヴクラフトが好んで使うようになった表現が所々出ていました。僕としてはこういう怪異は、よく分からないもの、理解できないものとしてあまり説明はつけずに描いたもののほうが好きなんですが、ブラックウッドの作品の中で何故かこの「柳」に限って妙に饒舌な感があり少し残念。まぁ、僕がラヴクラフトを意識しすぎているのかのしれないけど・・・。
しかし、他の収録作品にこれはと思うものが幾つかありました。「打ち上げ話」に「もとミリガンといった男」の二つが特にお気に入りです。「打ち上げ話」は、音をたててはいけないけれど急いで逃げなければならない、という焦燥感の入り混じった恐怖と孤独のもたらす恐怖が入り混じって「柳」以上にぞくぞくさせられました。「もとミリガンといった男」の方はラフカディオ・ハーンの「果心居士の物語」を下敷きに非常に奇妙な話を展開しています。怪異をあまり解釈を加えず現象のみを伝えていて、こういうものが読みたい、と思える作品でした。