水蜘蛛

水蜘蛛 (白水Uブックス)

水蜘蛛 (白水Uブックス)

小説を書かない僕にはどうしてそういうものが描けてしまうのか分からないが、文章を読んでいるだけで絵画を見ているがごとく綺麗な情景が浮かび上がる文章というものがある。この本はそういう稀有な文章で書かれた作品でした。美しい声で歌い人の姿に変わる水蜘蛛も、一人の男が大事に持っている陶器でできた赤ん坊も、読むだけで美しいと感じられます。
しかし、この物語はどんな美しいものでも次の瞬間には泥に固まりに変わってしまったり、逆にたんなる泥の固まりでも次の行では宝石に変わっていたりします。物の価値観がくるくる小気味よく変わっていく様は奇妙なようで、なんとなく理解できるような気もします。これがシュールリアリズムというものなのでしょうかね。