奥の部屋

奥の部屋 (魔法の本棚)

奥の部屋 (魔法の本棚)


知る人ぞ知る、を通り越してもはや知っておいて欲しい人も知らないような怪奇作家ロバート・エイクマンの怪奇小説集。
本国イギリスでだってほとんど忘れ去られているし、ロード・ダンセイニみたいに日本でのみ局地的に知られているというわけでもない。しかし、それにはもったいないくらい面白い作家です。
作者自身も自身の作を「ストレンジ・ストーリー(奇妙な体験)」と言うように、作中で描かれている流れは「怖い」というより「奇妙」と形容した方がいいような不思議なものばかりです。
しかし、その奇妙な流れの端々に、微妙に作中で登場人物達が体験したものの裏に潜むさらに広大な何かを感じさせる出来事が散らばっています。そして、「奇妙な体験」を経た主人公達は一様に、それまでとはどこか変わってしまっているのです。
感触としてはヘンリー・ジェイムズやウォルター・デ・ラ・メアが用いた「朦朧法」に近いものがありますが、それらの作品とは違ってエイクマンの怪奇小説は「怖さ」の基が推測しても全てを捉えきれないようになっている上に、話は終わってもその「怖さ」は「まだ、終わっていない」という感じが強く付きまといます。
話の奥に潜む「怖さ」と供に、未来に潜む「怖さ」を持って、じわりじわりと迫って来る作品集でした。
収録されている作品は5篇で、どれもとても面白かったですが、お気に入りを選ぶなら『恍惚』でしょうか。エロ怖気持ち悪い欲張りな作品です。