ちくま日本文学全集 内田百輭

内田百けん ちくま日本文学全集

内田百けん ちくま日本文学全集


妙な人もいたものだ。
怪談作家の一人、というくらいにしか知らなかった内田百輭
読んでみると、「件」や「冥土」「東京日記」などは確かに怪談話と言えないこともないが、なんか少しずれている。『新耳袋』と夏目漱石の「夢十夜」を足して2で割ったような、怖いような笑えるような不思議な味わいのある作品ばかりが並んでいる。
随筆らしき「無恒債者恒心」や「特別阿房列車」に入ると、怪談要素がなくなって、百輭の妙なところがさらに際立ってくる。借金に対する考え方や、仕事に対する姿勢、などちょっとした日常・心情を描いているだけなのに、どうも普通じゃない。
「餓鬼道肴蔬目録」なんて、戦争末期に食べ物がなくなってしまって、せめて昔食べていたものを思い出そうと、


さわらの 刺身生姜醤油、

たい刺身

かじき刺身

まぐろ霜降りとろノぶつ切り

・・・


と言う具合に永遠と食い物の名前を挙げていくだけの作品である。
気持ちは分からないでもないが、実際に書いて、おまけに自作として残す人間なんてこの人意外いないんじゃないだろうか。


巻末の解説では、赤瀬川源平氏が「宇宙人の私小説」と呼んでいるけど、なるほどなぁと妙に納得してしまった。