心霊の文化史

心霊の文化史---スピリチュアルな英国近代 (河出ブックス)

心霊の文化史---スピリチュアルな英国近代 (河出ブックス)


 変なラインナップを誇る新創刊レーベル「河出ブックス」の一冊。

 自然界には目には見えない特殊な電波が飛び交っていて、そいつが僕らの魂を〜云々の「メスメリズム」
 氏や育ちや性格や知性は顔相に出るから、一番優れた顔相持ってる僕ら白人が最強だよね!な「骨相学」
 流行りの降霊術と東洋思想を駆使して信者を集めた19世紀イギリス版細木数子ブラヴァツキー夫人率いる「神智学」
 現代において疑似科学・オカルトという烙印を押され封殺されているこれら学問や思想の影響力を論じた一冊。

 本書を読めば、これらの考えが別に全然無駄なものだったわけではなく、詩人・イエイツや心理学者ユング、近代都市計画の祖エベネーザー・ハワードなどの思想に大きな影響を与え、しっかりと現代に続く文化・科学の流れの一部になっていることがわかる。

 ただ、この本で取り上げられているのは基本的には心霊主義の作りだした「成功例」の話である。
 確かにイエイツはノーベル賞取ったし、心理学といえばユングである。奴らはすごい。でも、僕は個人的にはこの時代の心霊主義ブームの面白さは「失敗例」の方にこそあるように思う。神智学会や黄金の夜明け団の内部抗争や、エセ霊媒師達の活躍とそれに騙された心霊科学者の末路には、「成功例」にはない親しみや現実感を感じてしまう。僕があの頃のイギリスにいたら、現代に残る成功なんかしなかっただろうけど、周りがすごいって言ってる霊媒師に騙される自信ならある。絶対に家庭用ヴェジャ盤とか買う。

 一般人や知識階級も含め社会の中で当たり前のように信じられてきたことが、実はニセモノだったなんてことが、科学的なこと現実的なことを旗印にしていた近代において起こったのだ。凄い間抜けで、かなり怖い話だ。効果があるから、偉い科学者が言ってるからホントだなんていう僕の思考は、19世紀の心霊主義ドップリのイングリッシュ・ピープルと同じなのだ。
 だから、後世、あいつらあんなもん信じてたんだぜと子孫に後ろ指さされる時代が来るかもしれないことを、覚悟しておこうと思う。