ペンギン・ハイウェイ

ペンギン・ハイウェイ

ペンギン・ハイウェイ

 『太陽の塔』とか『四畳半神話体系』の森見は京都と自虐ネタから離れたら話が作れるのかと心配だったけれど、『きつねのはなし』らへんでなんか大丈夫そうだという気がしてきて、今回『ペンギン・ハイウェイ』で全然いけるんだなと確信させられた。この人、小説かとしてマルチな上にかなりハイスペックなのね。
 『ペンギン〜』は文章自体今までより淡々とした感触で、笑いどころみたいなものも特にない。これまでの森見作品のイメージが頭にあると少し戸惑うが、主人公の心象描写は細やかだし、作中でおこるふしぎな出来事はどことなくユーモラスで、読んでいるうちに作品全体が持つ静かでやさしい雰囲気にひきこまれる。
 静かではあるが話としての起伏もしっかりとあって、作中で巻き起こる「ふしぎ」は進むにしたがって膨れ上がっていき、ペンギンやらタイムトラベルやら世界の果てやらが入り混じり、先行き不明なかなり混沌とした状況に。
 そして、結末ではそれらすべてをきちんと回収し登場人物の心情と絡めて落とし、なおかつ作中の雰囲気を全く壊さない、という丁寧かつ繊細な作品になっている。
 終わってみれば王道な話ではあるが、森見の違うすごさを見れるかなりいい作品。