ザ・ロード
- 作者: コーマック・マッカーシー,黒原敏行
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/05/30
- メディア: 文庫
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「父子二人」
「滅亡した世界」
「希望のない旅」
「パパ死亡フラグ」
こんなあからさまな要素満載の「いい話」に誰が感じ入ってやるものかという反抗心がふつふつと湧いてきてしまい、大変もったいない読書になってしまった。読み始めておいてなんだけれど。
いや、ただ、過酷な環境の中、息子を守るため時に冷酷な判断を下さないといけない父親の苦労と葛藤も、父親の判断を理解しつつも他人に対して優しさを忘れない息子の純真さとその成長云々もわかるんだけど、ちょっとこの話は父子の存在を理想化して書きすぎじゃないだろうか。
作中で描かれる父子の感情は、それが怒りや苛立ちでも、父は子を、子は父を、思いやった末の優しく整然としたものになっている。家族とはいえ、もっとお互い理不尽な怒りやら反抗心やらがあったっていいじゃない。人間だもの。
しかも、舞台はディストピア。食料も少なければ、まともに寝る所すらない。父子以外に登場する人間なんか、略奪はするわ奴隷は飼うわ人肉は食うわと北斗の拳のモヒカンみたいなやつらがほとんどである。
この悪い奴らの書き方も少し極端すぎる気もするけれど、そんな世界の中でこの父子だけが、人も食わず物も奪わず、それぞれの勝手な欲望も理不尽な感情も出さずに「いい人」のまま生き続けられるというのはどうにも虫がよすぎる気がする。
父子の姿を通して「人、かくあるべし」とでも説かれているようで、どうにも居心地がわるかった。
それでも、受け取り方がちょっとでも変われば途端に響いてくる話のような気もするので、夏の映画版を観に行こうと思う。
映像でみればきっと僕も素直になれるはず。
問題は、こんな陰々鬱々とした話を誰と観に行けばいいのか。
さっぱり見当がつかないな。