90年代SF傑作選(下)

 山岸真編 ハヤカワSF
編者の腕がいいせいか、それとも90年代のSFが僕の好みなのか、はたまたその両方か。どれを読んでも面白かったです。あの熱狂的だったサイバーパンク運動収束の影響か収録されている作品はテーマも魅力もバラバラなのにどれを取っても楽しめたというのは自分でも意外でした。ただ、もっと意外だったのは、テリー・ビッスンロバート・J・ソウヤーグレッグ・イーガンなど自分のお気に入りの作家や評判がよくて興味を持っていた作家よりも、名前もしらなっかた作家やあまり興味を持っていなかった作家の作品のほうが楽しめたことです。
イアン・マクドナルドの「フローティング・ドックス」では、登場キャラクターの語る神話や訪れた場所から物語の背景が明らかになっていく構成、そして、それとともに明らかになる登場キャラクターたちの存在理由が悲しくていいです。ナンシー・クレスの「ダンシング・オン・エア」はバレエという芸術の世界を舞台にしたところがつぼに入り、さらにSF・ミステリーの要素を上手く取り込んでいるため読んでいてどんどん引き込まれていきました。感情的なグロテスクさを持ち合わせているところも特徴的です。また、作品の舞台で取り込まれたというならジェイムズ・アラン・ガードナーの「人間の血液に蠢く蛇――その実在に関する三つの聴聞会」も出だしからローマの宗教裁判から始まったためどっぷりつかってしまいました。
いままで知らなかった好みの作家に出会えるのはアンソロジーならではの喜びですね。