M・R・ジェイムズ怪談全集1

 M・R・ジェイムズ著/紀田順一郎訳 創元推理
「怪奇」という言葉を堂々とブログのタイトルにしながら、近代怪奇小説3大作家の一人M・R・ジェイムズのこの全集をまだ読んだことがなかったというのは・・・いや、なんともお恥ずかしい限りです。少し言い訳を許してもらえるならば、僕の印象としてこの作家はどうも地味だったのです。他の二人、ブラックウッドやマッケンはその作風が特異で、その当時の怪奇の新しい流れを感じることのできる作品である。そのため、短編集などを読んでも印象に残るのである。一方、M・R・ジェイムズの作品はブラックウッドらのそれとは違い古典的な「怪談話」である。マッケンの作品に含まれるような強烈な描写力や大掛かりな背景を感じさせることもない。そのため、アンソロジーでしか読んだことのない僕はさほど面白い作家として認知していなかったのである。
ただ、やはりそれは間違いだった。この全集を読んではっきりとこの作者が何故怪奇の御三家に含まれるのか実感させられた。M・R・ジェイムズの作品はブラックウッドらのような新しい試みを目指したものでなく、古典的な怪奇の完成を目指した作品なのである。その作品において、ブラックウッドが行うような、怪奇現象の原因の説明や解釈は行われない。また、M・R・ジェイムズ以前のレ・ファニュなどが怪奇を書いたときにありがちな物語の冗長さも殺ぎ落としている。不思議なことは不思議のままで、できるだけ無駄のない物語でその恐怖を伝える、がその作品の特色である。一見地味だが、無駄がない分話の途中でだれることも、変な蛇足で興がさめることもない。そして、多くは触感からはいるその恐怖はストレートに読むものに伝わりゾクゾクとさせられる。純粋に「怪談」をする姿勢に敬服。この感じはブラックウッドの作品より好きです・・・マッケンと比べると分からないけど。
個人的に好き、というか怖かったのは「アルベリックの貼雑張」「秦皮の樹」「13号室」「学校奇譚」かな。