怪奇探偵小説名作選8 日影丈吉集


前回読んだ『日本怪奇小説傑作集2』に収録されていた同作者の「猫の泉」という作品が面白かったので、その繋がりです。
今まで読んできたこのちくま文庫のシリーズの感じからして、探偵小説といえば東京が舞台なのかと勝手に思っていたのですが、この作者の作品では多く「田舎」を舞台にしていました。
作者の出世作「かむなぎうた」からして少年時代の思い出を語っていく話になっています。そこに現れているのは泥臭さなどではなく、郷愁の感覚です。この「ノスタルジー」の感覚というものは昭和20年代からすでに存在していたんですね。僕は江戸川乱歩やその周辺作家の作品を、いわゆる「モダン」な雰囲気を持った作品と思い込んでいただけにびっくりしました。
ただ、この作品集は収録作を全て発表された年代順に並べているのですが、後年に行くに従って舞台は都会・戦地・西欧などに移っていきます。そして、それとともに最初に見られた鮮烈な「郷愁」の感覚は薄れていきます。
後期の作品には「吸血鬼」など有名な作品もありましたが、僕はやはり最初期作「かむなぎうた」が最も面白いような気がしました。