乱歩地獄

映画『乱歩地獄』を見に行きました。
夏の頃からずっと楽しみにしていた作品ですが、なんと、やっている映画館は東京では新宿と渋谷の2館だけ。仕方なくなじみのない新宿くんだりまで足を運びました。
なんで、こんなに上映しているところが少ないんだと思っていたのですが・・・なるほど、実際に見て納得しました。
やばい。やばすぎる。
一応、R15指定になっていますが、この作品ならR18、いやR20くらいにしても足りないのではないでしょうか。正直、現代の日本において放映されている事自体、信じがたい作品です。
とにかく、気持ち悪い、とか、怖い、とかぶち抜いて、見るのがきつい作品です。出来がひどいわけではありません。むしろ、とんでもなくすごい作品だと思います。面白い。すさまじい。
でも、作品に没頭すればするほど、満ち満ちた狂気性にあてられそうになります。次の展開を見るのが恐ろしいと感じます。20過ぎの僕としても、トラウマものでした。
内容としては、乱歩作品を題材とした「火星の運河」「鏡地獄」「芋虫」「蟲」の4話からなるオムニバス形式。
「火星の運河」は5分くらいの非常に短い作品です。もともと、筋のないような話なので、無音のままイメージのみを見せるようになっています。他の三篇にも登場する俳優の浅野忠信が主人公として現われるため、以後に続く他の作品に繋がっているようにも見えます。
「鏡地獄」は乱歩の題名の作品と、探偵・明智シリーズを繋げたミステリー仕立ての作品です。「鏡地獄殺人事件」といった感じでしょうか。あの実相寺氏が監督。30分くらいの長さですが、その中にきちんとミステリーの展開が収まっていますし、エロ・グロも美味い具合に入り込んでいるので、夏にやっていた京極夏彦原作の映画『姑獲鳥の夏』より面白いくらいです。ですが、後ろに続く2作と比べるとこれですら軽いジャブみたいなものです。
そして、「芋虫」。パンフレットやサイトを見ても、この芋虫の姿だけは載っていなかったので、「手足の動かない人」くらいでお茶を濁すのかな、と思っていたら、とんでもない。まじで「芋虫」が出てきてました。手・足の無い。あんまりなので、宣伝では伏せていたのかもしれません。自分では言葉も話すこともまともに動くこともが出来ないその姿があまりにリアル。しかも、脚色こそありますが、基本的に原作に非常に忠実。夫人が目を潰すシーンまでやります。ぐぇ。
最後に「蟲」。他の作品とは違い、音楽や主人公の行動・言動がコメディタッチなのですが、やっていることの気持ちの悪さは随一なので、むしろその狂いっぷりを引き立たせています。重度の心因性アレルギー性皮膚炎の男を演じる浅野忠信の怪優ぶりもすごいですが、虫の這いまわるような音の使い方が印象的でした。なまじ変な明るさがある分、先が読めなくて、何処まで行くのかが分からず見ていて一番恐ろしい作品でした。まぁ、行くとこまで行ってくれたけどね。
原作の江戸川乱歩の作品には、怪奇で猟奇ですが、どことなく見世物小屋を見るような、子供っぽい憧れがありました。だからこそ、小学校の図書館にも置いてあったりのでしょうが。でも、それらが映画となったこの『乱歩地獄』は、その子供っぽさや憧れの部分がごッそりと抜け落ち、そのかわりその狂気性が増幅されているような気がします。これは監督たちが乱歩とは違って大人の視点から作ったからなのかもしれません。狂気や男女の関係が明らかとなった乱歩作品。それが、これほどまでに破壊的なものになるとは思ってもみませんでした。
あぁ、多分しばらく夢に出ると思います。後悔はしてないけど、2度は見れないなぁ。