アーサー・マッケン作品集成Ⅰ 白魔

アーサー・マッケン作品集成 (1) 白魔

アーサー・マッケン作品集成 (1) 白魔


今日はマッケンが僕を呼んでいたので読みました。
何故か一巻だけ持っている『アーサー・マッケン作品集成』
一巻は初期の作品を中心に収録していて、内容は
「パンの大神」
「内奥の光」
「輝く金字塔」
「白魔」
「生活の断片」
の5篇となっています。


「パンの大神」と「輝く金字塔」は再読。
これらと「内奥の光」は、いずれも謎を追っていく間に段々と奇怪な情報が明らかになっていき、最後に怪異を目の当たりにする、という形式を取った作品。
この形式と鮮やかな情景描写、気味の悪さは、まさに記憶に違わぬ期待通りのマッケンでした。


そして、今回一番期待していたのが「白魔」。
代表作の一つと言われていますが、文庫落ちはせず、アンソロジーにもあまり入っていないため、前から読みたいと切望していた作品です。
とある会話の席で、「悪」について自説を語ることになった男が、その例として差し出した手記。そこには、ある女性が少女時代に乳母から教えてもらった奇妙な風習や、「白い人」との関係が書かれていた・・・
という、作者の他の怪奇モノとは少し違った形をしています。
土着の信仰の神・妖精やそれを祭る人々の伝承は『ゲゲゲの鬼太郎』なんかでアニミズムに変な好印象を持つ僕から見ると「気持ちが悪いなぁ」くらいの印象ですが、一神教が生活に根ざす西欧人にとっては禁忌への恐怖・嫌悪感が強烈に掻き立てられるのでしょう。
マッケンも宗教性からくる恐怖については意識して書いていたようで、作中人物の「悪」に対する論説の中に、それを踏まえた怪奇小説に対する取り組み方が垣間見えます。


最後に「生活の断片」。
これは、他で紹介されていることもなかったので、目次を見るまでこんな作品があることも知らなかったのですが、今回最もすごい作品でした。
ロンドンに住むサラリーマンの主人公とその妻。特に貧乏でも裕福でもない平凡で幸福な夫婦の生活が語られていきます。
怪奇小説ありません。本当に平凡な暮らしを描写し、正直マッケンにこんな幸せな男女が描けたのか、と思う程穏やかです。
途中挿入される散歩の情景や思い出話も、変わり映えのしない生活を彩る要素で綺麗だなぁ・・・と読んでいると、途中から徐々にこの「彩り」の部分が増えていき、段々と主人公の思考は妙なところに向くようになっていき、次第に「平凡」の世界から「幻想」の世界へと足を踏み入れていきます。
すごい、と思うのは、その主人公の思考がどの段階においても理解し共感できる、という所と、破滅的なラストを迎えるのではなく、変化の後もあくまで主人公にとって生活は幸せなままである、という所です。
読んだ後、果たして自分はどの段階にいるのだろう?と考えさせられると共に、なんだかマッケンの感覚を自分の延長上に捉えることが出来ました。
現在日本で紹介されているマッケンの姿とはかなり違いますが、それにしても読まれないのはもったいない傑作です。