文豪怪談傑作選 川端康成集 片腕

川端康成集 片腕―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)

川端康成集 片腕―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)


東雅夫編集の『文豪怪談傑作集』シリーズの第一弾。
日本初のノーベル文学賞受賞者・川端康成の怪談集です。
日本怪談はその怪異の素として情念・怨念をよく用いるので、必然、男女の仲が話の中心となる作品が多いのですが、川端康成もその流れを受け継いでか、収録作のほとんどに男女の関係を持ち込んでいます。
ただ、作品内の男女の関係は、あからさまにベッタベッタしたものではなく、触れるか触れないかくらいの間が保たれていて・・・まぁ、その「間」みたいなものが、作品をえらく「綺麗」に見せたり、「エロス」を感じさせたりするわけです。
で、「エロス」という点で言えば、やはり表題作「片腕」。
ある男が若い女の子から片腕を借りて来て、その腕に添い寝して一晩明かす、と話事態は何だかよく分からないものなのですが、その「女の腕」の描写がすごい。腕の姿形やその感触、そして匂い・・・と、読んでいると、五感のすべてに腕の存在を訴えかけてきます。読む人によっては気持ち悪いだけかもしれませんが、人によってはたまらなく「女性」を感じるはずです。フェチズムってそういうものです。
加えて、本書で興味深かったのは若い頃の川端康成が心霊学に傾倒していたという点。
初期の作品である「白い満月」や「叙情歌」などにはその影響がしっかりと出ていて、千里眼やらエクトプラズムやらオカルトチックな要素が登場する上、怪異に対して、登場人物が原因を推理していったり、心霊学の書物を引用して解説を加えてみたり、と理由付けがなされています。怪異の原因が情念・怨念という点ではそれまでの怪談話と変わらないのですが、登場人物がそれを(心霊学という視点からとはいえ)考察しようとするという点が、日本怪談では珍しいことです。どことなく、ブラックウッドの「ジョン・サイレンス」シリーズなどのような西洋の幽霊探偵物に似た印象がありました。