怪奇幻想の文学Ⅲ 戦慄の創造

訳者代表:平井呈一
出版社:新人物往来社
発売日:1979

なんだか丸々一ヶ月更新をサボっていたようです。
ここをサボったところで他の何か有意義なことに時間を割いているわけでもないし、寧ろここで感想でも書いて印象に残しておかないと、本を読んでも読むそばから忘れてしまうので、復帰しようかと思います。

今日読んだのは『怪奇幻想の文学Ⅲ 戦慄の創造』です。
収録作は、
『オトラント城綺譚』 ホレス・ウォルポール
『判事の家』 ブラム・ストーカー
『十三号室』 M・R・ジェイムズ
『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』 H・P・ラヴクラフト
の四作。加えて、紀田順一郎による評論『ゴシックの炎』と荒俣宏の巻末解説が付いています。
本書は、英米怪奇小説の歴史を語る上で、その出発点となる「ゴシック」というジャンルを中心に据えたアンソロジーです。
と言っても、厳密に「ゴシック」(「ゴシック・ロマンス」とも言う)という作品は『オトラント城綺譚』のみ。その他は「ゴシック」の流れを受けその要素を残した作品と言ってもいい気がします。
まぁ、本書では何を抜かしてもまず『オトラント城綺譚』でしょう。
1764年にイギリスで出版され、上流階級の人々の間でたちまちブームとなり、一作にして「ゴシック・ロマンス」というジャンルを作り出した、言うなれば怪奇小説の大元のような作品。また、アーサー・マッケンやブラム・ストーカーなどの翻訳者であり、紀田順一郎荒俣宏の師でもある、平井呈一がこよなく愛した作品でもあります。
しかし、その内容は、後年の怪奇小説やホラーの形とは随分違います。
「ゴシック」の由来となっている巨大な古城という舞台はなんともおどろおどろしい印象ですが、話の筋は、年老いた城主が権威をたてにうら若い令嬢に結婚を迫っていて、そこに若くて聡明な若者が現われ令嬢を助けようとし・・・そして最後は大団円、と古典的の一言に尽きます。
「恐怖」自体を話の中心として描く怪奇小説や怪談とは違い、「恐怖」はあくまで物語を盛り上げる引き立て役として使われているようです。
それでも当時の人とっては、ゴシック調の古城の雰囲気や時々起こる超自然の現象に、ゾクッとさせられるものがあったのかもしれませんが、今ではこれを怪奇小説として読んで楽しめる人はなかなかいないんじゃないでしょうか。多分、時代劇として読んだほうが、しっくりくると思います。
翻訳ものなのに「〜でござる」「〜だぞえ」なんて台詞が平気で出てくるしね。