くじ

くじ (異色作家短篇集)

くじ (異色作家短篇集)


『たたり』を書いたシャーリィ・ジャクスンの短篇集。
しかし、どれも『たたり』のようなモダン・ホラーではありません。
超自然的な要素はほとんどなく、舞台するのも、結婚式の前であったり、旅行の最中であったり、と本当に誰の生活の中に訪れてもおかしくないありふれた状況下。そこで、『たたり』でも特徴的だったあの、人と人との関係から生じる心理的な不快感を描き出しているのです。
焦りや混乱、失意や憤りなど、日常の中で生じる様々な「嫌な感情」を見事に抜き出した作品達は、読んでいると自分の中のコンプレックスがじくじくと刺激され、ページを進めるごとに、思い出したくもない自分の中のあの日あの時あの事が頭の中をフラッシュバックし、どんよりとした気分になっていきます。
触れたくもない記憶や思いが多ければ多いほど、嫌な気分にされられる本ですが、しかし何故かページをめくる手は止まりません。嫌だ嫌だと思いつつも楽しんでしまうこの感情は、一体どこから来たのでしょうか。被虐なのかな。自分の心の不思議を感じさせる一冊でした。
ちなみに、お気に入りというか、一番落ち込まされた作品は「おふくろの味」。「魔性の恋人」と「曖昧の七つの型」もかなりきます。