ゴシックハート

ゴシックハート

ゴシックハート


 「ゴシック」とは何たるかを説いた評論集、というか、「ゴシック者」である作者が己のゴシック観を語っていくのだから、ある種エッセイといってもいいのかもしれない。初めはどうにも主観的な感じがして素直に読むことが出来なかったが、読んでいる内に以前読んだ『八本脚の蝶』で著者・二階堂奥歯が持っていた感覚と繋がっていき、「人形」の項目で二人がほぼ同じ語っているのを見てやっと作者の如き「ゴシック者」というのは世に点々と居るのだなぁ、と実感出来た。まぁ、最後まで読んだら二人が実は面識があるということが分かったんだけど。
 「自己が異形である」という考えを幼少の頃より持っていたり、怪奇嗜好や読書傾向など、作者の語る「ゴシック」の中には色々な点で共感したり共有していたりする部分はあるのだけれど、逆に、全く自分の中で芽生えていない感覚や思考も多く語られていた。特に「人形」の項目なんかを読むと物凄い乖離を感じてしまう。主体を捨て、他者の命ぜられるがままの「人形」になりたい、という欲求は、『八本脚〜』を読んだ時も衝撃を受けたものだけど、語り手が変わった本書で改めて触れてみても、租借しきれない。ただ、理解は出来ないのだけれど、語っている彼女らが本当に真剣なのは伝わってくる。僕の中には存在しないけれど、その種の欲求が、確かにこの世の中に存在していることが実感でき、それがなんとも衝撃的だ。
 ところで、読んでいて思ったのだけれど、「人形」となった彼女らにとって、「主人」となる存在とはかくあるべき・こうであって欲しい、という欲求というのは残っているものなのだろうか。完全に判断を他者に委ねた「人形」となったからには「主人」の選択もしないものなのだろうか。それとも、自分を愛でてくれる理想の主人を必要とするのだろうか。とても気になる。