鼻 (角川ホラー文庫)

鼻 (角川ホラー文庫)


第14回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した表題作+二編の短編集。
ホラー小説大賞は毎年なんとなく気になって買ってしまうものの、「怪奇」は好きでもスプラッタやモダン・ホラーは駄目という微妙な嗜好が災いして、何度となくがっかりしていた記憶がある。
ただ、この『鼻』はよかった。
平山夢明のようなガサガサとした心がささくれ立つような雰囲気、安易にグロテスクさを求めたりやショッカーに突っ走ったりしない姿勢、そしてSFちっくな設定を平気な顔で持ってきておまけにそれをきちんと短篇の中で消化する懐の深さ。いいね。実にいいね。
特に「鼻」は、視点を異なる二つに分けて交互に語っていき、全く違うものを見ているように思わせておきながら、徐々に重ね合わせの構造にしていく、という僕にとっては大好物とでも言うべき作りだった。


しかし、この作者、巻末の大森望の解説でその人となりが少し紹介されているのだけれど、「普通の人生が送りたくない」という理由で大学を中退し、傾きかけた場所を選んでアルバイトをし、近所の冷たい視線を浴びながら、人生の一時期を「身を持ち崩すこと」に費やした、というのだから随分な変人である。
おまけに変人なだけではなくて、この「鼻」での受賞と同時期に他の作品で江戸川乱歩賞も獲っているというのだから、なんというか、妖怪のような新人である。