秋の牢獄

秋の牢獄

秋の牢獄



 斬新なアイディアとか、新鮮な切り口ってのがあるわけではないし、人物描写や展開だってかなりあまい気もする。
だけど、収録された三話一つ一つに一つづつ、「ビビビッ」とくる情景が描かれていて、そこにただただ惹きつけられてしまう。
 例えば、「神家没落」の日本各地を転々と移動する奇妙な家に殺人鬼がひっそりと棲みついているところとか、「幻は夜に成長する」で恋人と一緒に主人公の作り出した幻の「夏」を見るところとか。
 日本的で、ノスタルジックな空気を纏った情景が脳内にパッと展開されるときの感覚が、なんとも、どうにも堪らない。
 正直、物語全体の流れではなく、この一景とその余韻だけで読んでしまっている気がする。ちょっとずるいよね。これ。

 そう言えば、この本、東雅夫が「W・H・ホジスン好きなら是非」と言っていたから買ったんだっけか。「神家没落」と『異次元を覗く家』を重ねてそんなことを言ってたのかなぁ。