文豪怪談傑作選 三島由紀夫集 雛の宿


三島由紀夫は怪談に関してはかなり器用な作風であるように思う。
得体の知れない深い深い情念を描いてぞっとさせる「雛の宿」
ミステリーの謎めいた恐怖の部分だけを綺麗に切り出したような「花火」
読者の裏をかいて怖がらせるように物語の構造に工夫を凝らした「切符」
など、かなり怪談に対して造詣が深いらしく、手を変え品を変え「凝った」話が多い。
僕の頭の中の三島由紀夫は時代錯誤で右で自己陶酔の激しい人というイメージだったので、この作風はちょっと意外だった。「邪教」なんかを読むと、信仰やら陶酔やらに対して一歩離れて茶化しているもんだから、例の事件なんかのイメージとはどうにも結びつきにくい。
だけれど、「英霊の聲」だけはこの作品集の中では異色だ。
戦前戦中の将校たちが神となり美少年の口を借りて己の非業を滔々と語るというその話は、後世の作家が切腹した三島由紀夫のイメージを元にパロディを書いたのではないかと思うくらい、時代錯誤で右で自己陶酔の激しい彼のイメージそのままの内容だった。
あまりにもあまりの内容で、何かの冗談にしか思えない。
でも、三島由紀夫の死に様を考えると、絶対に、完全に本気だったのだろう。
他の作品と比べてみると、三島は2・26事件の亡霊にとりつかれていたんだよ!っていう説にも信憑性を感じざるおえないね。