宵山万華鏡

宵山万華鏡

宵山万華鏡


宵山」という夏祭が舞台となっている連作短編集。
(関東モノの僕は知らなかったのだけど、「宵山」とは7月1日から31日まである「祇園祭」の本祭前日7月15日のことを指すらしい。)

いつもの作者らしい阿呆話ももちろんあるが、今回久しぶりに『きつねのはなし』系の気味の悪い怪談話が入っているのが非常に嬉しい。ただ、本書の見どころは短編一つ一つではなく、一冊ひっくるめたその全体像だと思う。
同じ日の同じ場所で登場人物も重なるのに、それぞれの話の「現実」がちょっとづつずれている。
それぞれ話の視点が違う。登場人物の中には嘘をついてる奴や変装している奴や胡散臭い奴もいる。
だから、話者が騙されてるかもしれないし、その話の「現実」全てをがどうにも信用しきれない。
しかし、どうやら中には本物の妖怪も混じっているし、本物の怪異も起こっている。
ウソとホントと幻想と現実がいくつもギュウギュウに混じり合って、全体をみると何が何やら分からないが、笑いも気味の悪さもひっくるめてそこには怪しい楽しさがある。
こういう現実をぐにゃっとさせて、しかもそこに暗さだけじゃなくて明るい楽しさも混ぜることができるのが、この作者の独特さだと思います。