庵堂三兄弟の聖職

庵堂三兄弟の聖職

庵堂三兄弟の聖職


グロだけど、グロじゃなかった!!


ってのが率直な感想です。
人間の遺体を加工して、遺族の望むものを作り出す「遺工」。
その「遺工」師を親に持つ三兄弟の話です。
死体バラバラにして、巾着やら石鹸やら剥製やら作るもんだから、ナチスドイツ並みの所業が作中では繰り広げられています。でも、登場人物にとって「遺工」は立派な仕事。遺体の解体に対する罪悪感やら恐怖やらってのは、「仕事」であるからしてほとんど感じていません。むしろ作中でプッシュされているのは、その「仕事」に対する登場人物各々のプライドやコンプレックスの部分。三兄弟それぞれに「遺工」やそれを生業としてきた親父に対する、各々の葛藤があって、その部分だけとるんならNHKなんちゃらドラマ並みの王道さですし、普通にいい話になっています

ちなみに、この作品第15回ホラー小説大賞の受賞作品。
行われていることからして、確かにホラーなのかもしれませんが、読んでいるうちに「遺工」に対する彼らの常識が、読み手に伝染してきて、残酷残虐な描写が徐々に徐々に「普通」になっていき、展開されるドラマの方に意識が向けられていきます。「怖さ」も「グロさ」も感じなくなっていくわけです。作中に合わせて読み手の感覚すらも変えていくという技法は、前回読んだ『人類は衰退しました』に似ていますね。大変すごい技術だと思います。


それにしても、第15回日本ホラー小説大賞というのは、随分異色な回だったのではないでしょうか。『トンコ』にしても『粘膜人間』にしても今作にしても、それぞれ作風は異なっていますが、「怖さ」に一直線に向かった作品というよりは、「怖い」を使って他の物を表現しているように思えます。第16回も是非、こういう変化球的なホラーを読みたいものですね。