高慢と偏見とゾンビ

高慢と偏見とゾンビ ((二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション))

高慢と偏見とゾンビ ((二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション))


 朝日だか日経だかに書評が出ていて、そのあまりのバカバカしさに一目惚れ。
 19世紀イギリス文学の傑作『高慢と偏見』に「ゾンビ」を足してみたという単純なコンセプトの怪作である。
 イギリスの貴族社会で繰り広げられるツンとデレとラブとコメに満ち溢れた王道的な恋愛ドラマである原作部分も普通に面白いけれど、そこに突如としてゾンビが襲来しダンスに興じていた貴族の脳天を喰らい始めたりするその瞬間の破壊力たるや、そういう作品だとわかった上でも物凄いものがある。
 おまけに、主人公エリザベスが淑女でありながらゾンビ狩りを生業し、他人を見るたびに「この人は上品な人だが、武術の心得はなさそうだ」とかなんとか戦闘能力を値踏みする女戦士になっていたり、そのお相手であるミスター・ダーシーの叔母の家には家庭教師の代わりにキョート直輸入のニンジャがうようよいたり、巻頭の人物紹介に「ペイ・リュウ師――少林拳の師匠」とか書いていたりと、その他追加要素も超豪華。まさに、イギリス貴族文化とミステリアス・オリエンタリズムの融合である。
 そして、何より驚かされるのは、これだけ色々ぶち込んでおきながら、話の展開や結末をほぼ原作通りにまとめ上げているところ。誰が誰とくっついてどこの場面が感情の山になっていてとか、非常に忠実。原作の文章ママで使っているところも多く、これだけ異形な姿にしながらも、誰が読んでも『高慢と偏見』だと感じられる体裁は整えているのである。多分『高慢と偏見』しか読んでない人と『高慢と偏見とゾンビ』しか読んでない人とがそうと知らずに作中の恋愛模様についてディベートしても通じるんじゃないだろうか。
 

 この本、アメリカで100万部も売れたせいで、来年あたりに映画化までするらしい。
 僕は原作の予習を映画版『プライドと偏見』でやったから、いっそのことこれと同じキャストでやってほしい。ただ、ニンジャは中国人が演じて、カタコトのインチキくさい日本人にしてほしい。