ねじの回転――心霊小説傑作選

 ヘンリー・ジェイムズ著/南条竹則、坂本あおい訳 創元推理
やっと読みました。表題作の「ねじの回転」は、始めはありふれた幽霊話の形をとっているのに、話しが進むにつれてどこか単純な幽霊話とはずれが生じ始め、最後まで行くと見方によって様々な解釈が生まれてしまうという、一筋縄ではいかない、まさにひねった作品です。それだけでも、面白いのですが、僕がこの作品で特に印象に残ったのは、作品内に内包されている性的なニュアンスです。ここでも非常に上手いことに、けっしてそれらを直接的には描かず、台詞や動作、状況描写などによって匂わせ、読者に想像させるようになっているんです。なので、読んでいるときに、「なんかエロいなぁ」と感じてしまうのは、自分の妄想なのではとかなり不安にさせられますが、著者はその効果をねらって書いているみたいですね。解説を読んで、自分だけではないのだと妙に安心してしまいました。ただ、この作品で隠されているのは何も性的なものだけではないようなので、そこが特に印象に残ってしまうって言うのは、やはり僕が・・・。まぁ、ともかく読み手によってかなり変化する作品のようです。
また、今回の創元版の特徴になっている、他の幽霊小説も面白かったです。特に好きなのは「古衣装の物語」。一人の男性をめぐる姉妹のいさかいの話ですが、人間の気味の悪い行動がとても上手く描けています。幽霊になってしまった人物よりも、それの祟られてしまった人物の方が気持ち悪い何とも珍しい作品です。「ねじの回転」でも、幽霊より生きている人間のほうが恐いように読めてしまうんですが、この感触はサイコ・スリラーに近いものがありますね。