熱帯

 佐藤哲也文藝春秋
かってない熱気と湿気に襲われた東京を舞台に、伝統回帰を唱える過激派、CIA諜報員、役人、水棲人などが奇怪な事件を巻き起こす、なんとも無茶苦茶な話でした。本書で面白いのはなんと言っても、その馬鹿馬鹿しさ。というか、本書自体がそのバカ話によって構成されています。しかも、ただ馬鹿馬鹿しいだけじゃなくて、哲学的知識を織り交ぜつつ、細かく設定のなされた、芸の細かいユーモアなのです。笑いによってページを進めるそののりは、以前読んだ深堀骨に通ずるところもありますが、深堀のギャグとストーリィが知識に裏打ちされない独立したものであったのに対し、この『熱帯』は予備の知識を必要とする分少しとっつきにくいけれど、わかればそれだけ面白いものになっていると思います。ただ、難点を挙げればどうもストーリィが薄いところ。深堀ほど吹っ飛んでいればストーリィなんて気にしなくても大丈夫なんですが、ちょい大人しめなためにギャグに包み込まれた中心の無さを感じてしまいました。
でも、「プラトンファイト」は最高。