日本怪奇小説傑作集1

日本怪奇小説傑作集1 (創元推理文庫)

日本怪奇小説傑作集1 (創元推理文庫)

地震が起ころうが怪奇は読みます。
時代別に分けた三巻構成の『日本怪奇小説傑作選』の第一巻。時代的には明治35年(1902年)〜昭和10年(1935年)までに発表された作品が収載されています。載せられている作家も岡本綺堂小泉八雲江戸川乱歩などの有名な怪奇作家から夏目漱石森鴎外川端康成などの日本の主流文学作家にまで及びます。
乱歩や綺堂などの読んだことのある作品もありましたが、その作家の作品を初めて読んだ、というのも多かったです。そんな初めて読んだ作品の中でも面白かったのは、谷崎潤一郎の「人面疽」に大泉黒石の「黄夫人の手」、室生犀星の「後の日の童子」でした。
「人面疽」はタイトルそのままの内容。同じような怪異の起こる海外怪奇「こびとの呪」を前に読んだことがあったんですが、そちらのほうは気持ちが悪いばかりであまり好きではなかったのに、こっちは谷崎潤一郎の艶かしい描写と内容があいまって面白かったです。「黄夫人の手」は昔の長崎にあった中国人街を舞台にした話で、描かれる町が異国情緒漂う不思議な空気を持っています。その色のついた雰囲気が抜群によいです。「後の日の童子」は死んだ子供と残された親の話。お涙頂戴の内容ですが、読んだ後に残る寂しい感じは他作品にはないものでした。
他にもいい作品は多かったです。ただ、期待していた夏目漱石芥川龍之介など有名な作家の作品はわりとあっさりしていて物足りませんでした。これらの名前がこの作品集に並んでいること自体は面白いんですけどね・・・。
あと、全体をとおして思ったのは、日本の怪奇小説は西欧のものより女性を意識しているみたいです。ほとんどの話に女性が絡んできます。そこらへんの怪奇に対する西と東の意識の違いも詳しく比較して読んでみると面白いですね。