エナメルを塗った魂の比重


今年初のハード本を出して、芥川賞でも取る気なのかと期待させておきながら、候補にも上がっていなかった佐藤友哉の作品を久しぶりに読んでみました。
しかし、何故かこの作者の作品と僕はめぐり合わせが非常に悪い。
以前『フリッカー式』を読んだのは2年前。いわゆるファウスト系の作家の作品など他に読んだことも無かったので、その中に何を見ていいかわからず、ただ暴力と不安定な感情の話としか読めませんでした。
しかし、今回は上遠野や西尾維新、その他の似たような作品を随分読んでしまったせいで、この中に書かれる内容に飽食気味になっていました。確かに面白いんだけれど、こういうのはお腹いっぱいなんです。
上遠野作品のようなべたべたに青臭い台詞なんかは出てこないけれど、それでも作中に現れる独白や語りは同じような匂いを感じます。予知能力や記憶吸収などの本来のミステリーの枠から外れたガジェットも、西尾維新で食ってしまいました。少年・少女の心の変化や暴力性も・・・。
あまり多くは無いですが、僕が読んだ最近のライトノベルファウスト系の中でも突出してすごい作品だと思います。やりたいことを思い切り詰め込み、しかもそれを力技ででもきちんとまとめ上げているところは本当にすごい。でも、やっぱりお腹いっぱいです。
もしかしたら、高校生を書いたこの作品を2年前に読むか、今の僕に年齢の近い男が主人公の『フリッカー式』を今読むかしていたら、この人の作品が大好きになっていたかもしれない。