バルタザールの遍歴

バルタザールの遍歴 (文春文庫)

バルタザールの遍歴 (文春文庫)


 一つの体を共有する双子・バルタザールとメルヒオール。貴族生まれの二人の転落を描いた作品です。
 しかし、悲劇という感じはしません。むしろ作中でメルヒオールも言っていますが生まれてから延々と続く転落はむしろ喜劇めいています。だって、転落の原因はほとんど自身で招いているようなものなんですから。
 そして、なによりこの物語を喜劇に仕立て上げているのは、主人公の二人が何処まで落ちようとあいも変わらず酒を飲み、女を抱き、毒舌を吐いているというそのスタイルにある気がします。何処に行こうと全く悲壮感がありません。それは多分、こいつらが二人だからなのでしょう。たとえどちらかが落ち込んでいてもどちらかが元気。そして、何処まで行っても一人ではなく二人なのです。話の通じない異国でも周りに何も無い砂漠でも、二人いるからいつものスタイルで悲壮感なく乗り切れているのでしょう。赤信号、みんなで渡ればなんとやら、を地で行くような奴等です。
 多分、物語の後も彼らは転落していくでしょう。でも、彼等二人は一緒にいる限り大丈夫なんでしょうね。