どんがらがん


ついに発売した奇想コレクションアヴラム・デイヴィッドスン短編集です。
確か、これが出版されるのを知ったのは1年前の9月頃、その頃はこの作者自体知らなくて、「なんだか、変なタイトルのやつが出るんだなぁ」くらいにしか思っていませんでしたが、その後SFマガジンで本作にも収録されている「グーバーども」を読んで衝撃を受け、俄然楽しみになったという記憶があります。大体まる一年待っていたことになるんですね。長かった・・・。

以下感想ですが、出版されたばかりなので取り合えず隠しておこうと思います。見たい方だけどうぞ。あ、ネタばれもあるし、長いです。
なんとも妙な作品集でした。風評どおり一つのジャンルにくくれない作家、というか、アヴラム・デイヴィッドスンの書く一編一編がどれもそれ自体くくれない作品ばかりです。しかも、持ち味がどれも違っていて・・・うーん、これが異色作家というのもなのでしょうか。
編者の方がかなり頑張ったのか、作品数も16編と随分ありました。
どれが好き、と選ぶのもなかなか難しいのですが、しいて言えばお気に入りは「尾をつながれた王族」「すべての根っこに宿る力」あとは「ゴーレム」でしょうか。
「尾をつながれた王族」はSFのようですが、設定を語らずに物語を始めてしまい、おまけに最後まではっきり解明されない、というなかなか意地悪な作品です。ただ、その全てを語らずの姿勢が深さが分からないような、なんとも変わった雰囲気を作っています。このタイトルは当時編集者だったフレデリック・ポールが、もともとのタイトルを「これじゃ誰も読みたがらないよ」と思って変えてしまったらしいんですが、「誰も読みたがらない」タイトルってどんなんだったんでしょう?
「すべての根っこに宿る力」は怪奇とサイコとミステリーを割ったような作品です。舞台が田舎で土着の雰囲気が強いところや話の展開が、日影丈吉の「狐の鶏」に似ている気がします。
「ゴーレム」は登場人物達の掛け合いが面白い作品。どんななすごいことが傍で起こっていようと、話の邪魔だとしか考えないような人物のふてぶてしさがいいです。日常って強い。

ただ、全体を通して、どうも作品から感じる衝撃が、期待していたより少し弱いような気がしました。
本書を読む前に僕がデイヴィッドスン作品で読んでいたのは「グーバーども」「ゴーレム(創元SF『SFベスト・オブ・ザ・ベスト』)」「クィーン・エステル、おうちはどこさ?(ハヤカワNV『幻想と怪奇3』)」だけだったんですが、もっと強烈な印象を持った作品と記憶していました。そこで、色々考えていたのですが、どうやらこれは作中の人物の訛りや言い回しに関係があるみたいです。
解説によるとデイヴィッドスンは文章がかなり独特で、訛りや方言などを多用し、かなり読みにくい文章らしく、「悪文」とさえ呼ばれているみたいです。本書ではそこに気をつかってか、随分平易な文章に訳してあるのですが、それがどうもちょっと物足りない。
実際、「ゴーレム」の訳を比較してみたらかなり違いがって、『SFベスト・オブ・ザ・ベスト』の方が面白い気がしました。ちょっと読みにくくても、スラングや方言で訳してあった方がその人物が立つし、掛け合いも面白くなるようです。それがないせいで作品の衝撃が弱かったみたいです。
そこが少し残念でした。