ふくろうの眼

ふくろうの眼 (文学の冒険)

ふくろうの眼 (文学の冒険)


読むのに随分かかってしまいました。
作者ゲルハルト・ゲプフは現代ドイツ文学者。どうやって発音するかは分かりませんが、名前の最後の「フ」は、本書だと「ァ」とか「ュ」とかみたいに小さな「フ」になっています。
手紙の中身を見通す「ふくろうの眼」を持つ郵便配達人を中心として描く、架空の都市トゥルゼルンの24の物語。
郵便配達人、彼の配達する手紙、世界を旅して無数の話を覚えたオウム、トゥルゼルンの人々と24の話には複数の語り手がいます。一つの話を一人が通していることもありますが、中には途中で語り手が入れ替わっていたり、複数の人が交互に語り手する構造の話もあり、読んでいるとどんどん混乱してきます。おまけに、話が佳境に行くに従って、語り手の中には作者らしき存在も顔を出すようになり、現実と虚構の狭間が曖昧になっていきます。
作中には、ナチ、ヒトラー、バルタザル、メテオヒル、アントニオ・タブツキ、ボルヘスなどなど数々の実在の人物や出来事、文献が登場します。そして、それらの情報を語る者達には、郵便局員、手紙、オウム、腹話術、など、誰かの言葉を「伝える」「模倣する」要素がくっついています。
要は、登場する語り手は全て作者の言葉を「伝える」ための人物であり、そして作者もまた小説を通して他から得た情報を「伝える」存在である、という事なのかもしれません。
全体として、作者が、自分にとって物語を作るとはどういうことなのか、を記した作品として読めました。
この作品の舞台となっている架空都市トゥルゼルンは作者の他の作品の舞台にもなっているみたいです。『架空都市トゥルゼルンシリーズ』は四冊あり、本書はその最終巻ということなのですが、残念ながら他の巻は翻訳されてないとのこと。多分、いくら待っても出ないんでしょうね・・・