たたり

たたり (創元推理文庫)

たたり (創元推理文庫)


スティーブン・キングから「ここ百年に出た怪奇小説の中でも群を抜いて素晴らしい作品」としてH・ジェイムズ『ねじの回転』と共に絶賛されたのが本作『たたり』(旧訳『山荘綺談』)です。
ちなみに、この二つに続く作品として挙げられたのは、ラヴクラフトの『狂気の山脈にて』とマッケンの『パンの大神』だとか。


心霊現象を研究しているモンタギュー博士は、その次なる調査として幽霊屋敷<丘の屋敷>の宿泊を計画する。博士、その助手として選ばれた二人の女性、屋敷の持ち主の甥の4人は屋敷での生活を始めるが、案の定、ドアを叩く怪音や、館を走り回る獣らしきもの、などの怪異が起こり始め・・・
・・・と、筋はブラックウッドなんかが書きそうな典型的な館モノですが、勿論ただの怪談話ではありません。
この、人間が4人いる、というのが食わせ物なのです。
1人であれば自分だけで、2人であればお互い協力し合って・・・と人数が少ないと怪異に対峙するだけで精一杯ですが、4人もいると、どうにも余裕が生まれてきます。登場人物達は、怪異が起こっても、直情的に動かず、どこか裏表を使い分けながら行動します。生活する中でも、どこか自分達に役割を与えていて、お互いそれが分かっているので、表面上付き合いながらも、徐々に疑心暗鬼になっていきます。
そして、作中で視点の中心となるのが助手の一人エレーナ。
彼女は、三十路に入った今の今まで母親の介護に追われていたため、独身で友人も無し、
おまけに仲の悪い姉夫婦と同居中、そんな状況から逃げるように調査に参加した女性。
孤独な彼女は、4人の中でも特に不安定で、常に感情・心境が揺れ動いています。
この心理の動きが実にリアルで、特に終盤にいくに従って膨らんでいく「仲間外れにされている感覚」は、館の中で起こる怪異よりはるかに怖い。
怪異の「怖さ」+集団のなかで生まれる心境的な「怖さ」というのが、この作品が怪談話とは一線を隔しているところです。


また、この作品にはエレーナの視点からは見えてこない点や、そもそもエレーナの目を信用していいのか悩むこともあり、『ねじの回転』のように読み方によっては随分その形を変える作品のようです。