象の棲む街

象の棲む街

象の棲む街


第15回日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞を獲った作品。
アメリカと中国に支配され戦後の混乱期のような状態に戻ってしまった未来の日本を舞台とし、そこにしぶとく生きる老若男女の姿を描く連作短編集です。
プロレタリア文学のような貧困と労働の雰囲気は好きなのですが
読んでいたら、昔聞いた話を思い出しました。


上野動物園に初めて象が来た頃。
東北だかどこかに貧しい母子がいて
その子供がどうしても象が見たいと母親に言いました。
しかし、当時東京まで行く電車代はもちろん宿泊費も馬鹿になりません。
それでも、子供の願いを叶えたい母親は、着物などを売ってなんとかお金を作り
東京に居る親戚に頼んで有償で泊まらせてもらえるようにし
喜ぶ子供を連れ東京へ行きました。
しかし当日着いてみると、上野動物園は閉まっていて「定休日」の文字。
母子にはもう一泊させてもらうお金もないため、明日まで待つことも出来ません。
母親は呆然とし、
子供は門の前で走り回りながら「僕の象はどこだ、僕の象はどこだ」と泣いたそうです。


この話を聞いてから、上野動物園の門を正視出来なくなった僕は
どうも、この作品も冷静に読めませんでした。