外地探偵小説集 上海篇

外地探偵小説集 (上海篇)

外地探偵小説集 (上海篇)


上海っていいですよね。
特に、第二次世界大戦の頃は。
中国でありながら、西洋人や日本人が闊歩し、大陸と西洋の文化が混ざり合って何ともいえない妖しげな雰囲気を持って、娼婦の数なんかも世界一、治安も悪くて話の種になるような犯罪・陰謀話には事欠かない、そんな上海の黄金期。
本書は、その上海をそのまま缶詰にしたような、たまらない一冊です。
収録作品は、黄金期の上海と同じ時代に生きた作家の探偵小説のみ。
ほとんどの作家は、実際に上海に行ったもしくは棲んでいた人だそうで、中には当時上海で実際に起こった事件をそのまま文字に起こしたような作品もあるようです。
正直、普通に話の筋だけならどうと言う事も無い作品もあるんですが、これが上海が舞台となるだけで、面白さがぐっと変わってきます。「ただの物語」とは読めずに、そこから嘗ての上海まで意識が引っ張られてしまうと言うか・・・どんな事件もリアルに感じさせてしまう魔力が上海にはあるのです。
収録された全ての作品の根本に流れる「欲望」重視・「裏切り」上等の感覚も、当時の上海のリアルな空気だったのかもしれません。
様々な組織や妖しげな文化といった道具の豊富さと騙し合いが日常とも言える空気を持った上海は、探偵小説の舞台としては最高の都市なのではないでしょうか。
この『外地探偵小説』シリーズ。今度出るのはいつになるか分かりませんが、次は上海から南に行くそうです。香港かなぁ。