怪奇探偵小説名作選 氷川瓏集 睡蓮夫人


氷川瓏江戸川乱歩にその才能を見出され昭和20年頃から細々と創作をしていた作家です。作家生活は長かったにもかかわらず、発表した作品はわずか13篇ほどの非常に寡作な作家でした。
しかし、残した作品の少なさは、作者自身の創作に対するこだわりや丁寧さゆえのものだったのではないかと思います。その作品は、簡素と言うか全く無駄の無い文章で非常に読みやすく、尚且つ、一作一作読み終えたときにしっかりと心に残るものがあります。
編者の日下三蔵も解説で言っていますが、最初に収録されている「乳母車」という作品を読めばその凄さは容易にわかるはずです。たった3ページの作品にもかかわらず、その雰囲気といい結末といい、忘れられない不気味さがあります。
他の収録作も幻想小説やミステリ、SF風のものと様々ですが、どれも推考に推考を重ね、何度と無く文章を磨き上げる作者の姿が浮かぶような、珠玉の作品ばかりです。
特に子供の視点から犯罪を描いた「窓」、思わず一人の女の首を絞めてしまった男の心情を描いた「洞窟」、の二作は格別印象深い作品です。

氷川瓏の作品集は本書以外には無いそうで、まったく、日下三蔵には足を向けて寝れません。