ΑΩ

ΑΩ(アルファ・オメガ) (文芸シリーズ)

ΑΩ(アルファ・オメガ) (文芸シリーズ)



 まさかウルトラマンが出てくるとは思わなかったので、先頭シーンで「ジュワッ!」とか出てきた瞬間噴出してしまった。よく考えてみれば、主人公の名前は「諸星隼人(モロボシ・ハヤト)」だし、瀕死の状態で宇宙人と融合しちゃうし、変身して怪獣と戦うしで、結構最初からそのまんまの展開なんだよね。冒頭で聖書の引用とか持ってくるから、そっちにばっか気がいって気付かなかったよ。
 そんなわけで小林泰三によるウルトラマン・トリビュートになっているこの『ΑΩ』なんですが、元々のウルトラマンがもつ暗い部分を肥大化させて、角川ホラーっぽさをふりかけたような話になっています。主人公とか、最初自分が融合したのに気付いてないし、無意識に変身するたびにからだに負担がかかってぐしゃぐしゃになっていくし、日本人がどんどんぐちゃぐちゃでねちょねちょな怪獣に取り込まれていくしで、「勇気」も「希望」もあったもんじゃない。そして、そこが素敵。
 ところで、この作品を読んでいていつ間に、なんとなく角川ホラーの読み方について分かったような気がしました。今までホラー文庫を読むたびに、直接的なグロテスク描写(ぐちゃぐちゃ)とか汚い描写(どろどろ)とかに辟易していたんですが、これ、実は怖がるところじゃなくて笑うところなんですね。アメリカ人がゾンビ映画見て爆笑するみたいに。「恐怖」じゃなくて、「恐怖」のパロディーなんですね。きっと。『ΑΩ』作中に出てくる怪獣の「マイケル黒田」とか「ジーザス西川」とか、肛門のところにお婆さんがくっついちゃったおじいさんとか、笑いどころだよね?