神を見た犬

神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)

神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)


ついに僕の人生が仕事という局面に入ってしまったので、なかなか思うように本が読めなくなってしまいました。時間がなくなっちゃったよ。

で、1週間ほどかかって読んだのがこの一冊。
タタール人の砂漠』とかで有名な、イタリア幻想作家ディーノ・ブッツァーティの短編集です。新レーベルの「光文社古典新訳文庫」の一冊なんですが、このシリーズってカフカとかドストエフスキーとか「なるほどねー」って言うラインナップの中に時々、突拍子もない物凄い趣味的なモノが紛れ込んでますよね。ちくま文庫の「怪奇探偵小説シリーズ」における氷川瓏みたいな。これを紛れ込ませるためにわざわざ新レーベル作っちゃったんじゃないかと邪推してしまうような。だって、ブッツァーティの文庫がでるなんてねえ。

ブッツァーティというと「コロンブレ」に代表されるような、妄想のような強迫観念に追い立てられる話が面白いです。長編の『タタール人の砂漠』がそうですし、本書でも「神を見た犬」「七階」「グランドホテルの廊下」なんかがそんな感じの話になっています。傍から見たら馬鹿みたいな強迫観念も、ブッツァーティにかかればなんだかリアルなものになってしまい、その観念に支配されてしまった登場人物たちを通して、読む人は「人生ってこんなもんなんじゃねぇのかなぁ」って考えさせられてしまいます。少し寓話っぽいんですよね。

あと、これは本書を読むまで知らなかったんですが、ブッツァーティの作品には聖人がよく登場するんですね。生前立派に生きていた人が、死後祭り上げられるっていうあの聖人。ただ、その描かれ方が、やたらと人間くさいと言うか、ガチガチのキリスト教っぽい感じがしないんです。どちらかと言うと、池上永一の作品に出てくるような先祖霊みたいな描かれ方をしています。立派な教会の司祭もいれば、日々細々と生きていたような人もいて、死後の世界で自分の祭壇に拝みに来た人たちの願いを叶えようと働いたりもするけど、失敗もするし、泣いたり笑ったりもします。聖人なのに、俗世の人間とほとんど差がないんですよね。どことなく土着な神様の印象があります。海に面してて暖かいところの神様像ってどこもそんな感じになっちゃうのかしら。