幻想と怪奇の時代

幻想と怪奇の時代

幻想と怪奇の時代


小説ではないです。
第一部の『幻想書林に分け入って』は、荒俣宏と並んで日本における海外怪奇・幻想小説出版の現在を作り出した立役者である紀田順一郎が、怪奇小説に情熱を注いだ自分の半生と、それに併せて発展していった日本の怪奇小説事情を記した一代記…と大仰に書いてしまいましたが、要は怪奇小説出版の舞台裏のお話です。紀田順一郎が如何にして海外の怪奇小説にはまり、翻訳もろくろくないような時代にそれらを入手していったのか、や、怪奇の師・平井呈一との出会い、『怪奇小説傑作選』や『世界幻想文学大系』の出版背景などなど、幻想・怪奇小説好きにとっては興味深い話題が並んでいます。

第二部の『幻想と怪奇の時代』は、紀田順一郎が自分の編集・翻訳した本などに載せていた解説をまとめたものになっています。ゴシック・ロマンスや『フランケンシュタイン』など、怪奇に関してかなり詳細で丁寧な解説がなされていますが、特に英国怪奇御三家の一人であるA・ブラックウッドに関しては、この人ほどしっかり研究し解説した人は日本にいないんじゃないかと思います。A・マッケンやM・R・ジェイムズについては、他にいくらか資料がありますが、ブラックウッドについては『幻想文学』で特集されることもなかったので、深く知りたいのであれば本書に収録されている「゛もう一つの夜゛を求めて」が貴重な資料になっています。

一年ほど前に、神保町のアンダーグラウンドカフェで開催された紀田順一郎×東雅夫トークショーの時から予告されていた一冊だったので、無事出版されて嬉しい限りです。第一部に関しては、ほとんどトークショーの時の内容と代わらなかったんですけどね。それにしても、この本と同時に告知されていた、雑誌『怪奇と幻想』の復刊企画は何処に行ったのかしら。