ドイツ怪談集

ドイツ怪談集 (河出文庫)

ドイツ怪談集 (河出文庫)


 その名の通りドイツの怪奇小説を集めたアンソロジーです。
19〜20世紀のドイツって、イギリスほど科学信奉が強くなかったのか、それとも幽霊そのもの真偽の探求に対してそれほど熱心でなかったのか、細かな土台作りをして幽霊の存在を疑いのないものにしていくイギリス式の怪奇小説に比べるとずっとおおらかで、「まず幽霊がありき」の前提に立った、幻想小説に近い作品が多く収録させています。日本の怪談に慣れ親しんだ人にとっては、こちらの方が読みやすいかもしれませんね。
本書の中で特に印象に残っているのは「こおろぎ遊び」「カディスのカーニバル」「庭男」の三作。

グスタフ・マイリングの「こおろぎ遊び」は、とにかく無数のこおろぎが地面から湧き出てきて…という怪異のシーンが凄いです。象徴的でぐろい。ホフマンもそうですけど、ドイツの人って凄惨な場面の描写が巧いですよね。

ハンス・ハインツ・エーヴェルスの「カディスのカーニバル」は、怪談のパロディのような話で、「怖い」はずの化け物(歩く大木)が真昼間のカーニバルの最中に現れて、初めは無視され、次にうっとおしがられて、最後に大勢に囲まれ倒されてしまうという一風変わった作品です。しかし、ただ話の展開をパロディ化するだけではなく、最後に、倒された後大木の空っぽの表皮だけが残っていて、中身は一体なんだったのか?そもそも中身なんてあったのか?という漠然とした不安と可能性を作中の人々と読者に残しておくあたり、実に小憎らしい。

ハンス・ヘニー・ヤーンの「庭男」については…なんかもうよく分からない。けど、惹かれちゃう。

 一冊を通してみると、全体的に「怖い」というよりは「不気味」な印象の作品が多くなっています。最後まで読んでも何が起こったのか理解できず、分からないために一層気持ちの悪い、というこの感覚は、これまた物語のきっちりとした構成や詳細な描写によって「怖さ」を生み出そうとしたイギリスの怪奇小説とは目指す方向がずいぶんと違っていて面白いですね。